遺産分割について
遺言書がある場合は、被相続人の意思を最大限尊重し、原則として遺言書の内容で分割されます。遺言書がない場合は相続人全員での話し合いになり、全員の合意が必要です。一人でも反対すれば成立しません。
遺言書の有無により次のような流れになります。
遺言書がある場合
- 家庭裁判所で遺言書の「検認」を受ける。
- 原則として、遺言書の指示通り分割。
- 分割に不満があったり、遺留分が侵害されていれば、相続人間で話し合いが必要。話し合いが決裂すれば、遺留分減殺請求が発せられたりして、家庭裁判所で調停になる場合があります。
検認方法
-
検認とは遺言書が法定の方式になっているかどうかを調査し、後日の偽造を予防し保存を確実にするために行われます。
(この検認を怠ったり、勝手に開封したりすると5万円の過料が科せられることがあります。)
- 遺言書の保管人または発見者が、戸籍謄本、遺言書、相続利害関係人名簿等を添えて家庭裁判所に提出します。検認日は家庭裁判所から相続人全員に通知されます。(全員が出席しなくても有効です)
- 公正証書遺言は検認の必要はありません。
検認の場合は相続人全員に検認日程が家庭裁判所より通知されますので、相続発生の事実が分かってしまいます。何かの事情で内緒で手続きをしようとする場合は要注意。
- 印のしてない開封状態の自筆証書遺言でも検認は必要です。
- 公正証書遺言書があっても、相続分が遺留分を侵している場合は、「遺留分減殺請求」を受けることがあります。相続人の話し合い又は調停になります。
遺言書がない場合
法定相続分が基準になります。法定相続分とは遺言書がない場合に適用される法律で定められた分割割合です。
相続人の組み合わせで比率は以下のように変わります。
相続人の組合わせ |
配偶者 |
子 |
父母 |
兄弟姉妹 |
配偶者と子 |
2分の1 |
2分の1 |
なし |
なし |
子のみ |
× |
全部 |
なし |
なし |
配偶者と父母 |
3分の2 |
× |
3分の1 |
なし |
配偶者と兄弟姉妹 |
4分の3 |
× |
× |
4分の1 |
配偶者のみ |
全部 |
× |
× |
× |
但し、法定相続分は強制力があるものではありませんので、相続人間で協議がまとまれば、どのような割合で分割されてもかまいません。
非嫡出子(隠し子)で認知された子は、嫡出子(実子)の2分の1の相続分をもらえます。
認知されてなければ、相続権はありません。遺言書で認知されてる場合は、遺言執行者は就任の日より10日以内に、認知届けを役所に届けなければなりません。
遺産分割協議
遺言書がなかった場合は、相続人が集まり、協議することになります。
各人の遺留分を侵さない限り自由に決められます。
<進め方>
- 原則相続人全員が参加すること。欠席者がいても無効にはなりませんが、後日郵送持ち回りで同意がもらえないことがあれば、折角の協議内容が無駄になります。
- 協議は相続人全員の意思の合致で決まります。多数決ではありません。
- 話し合いが決着したら遺産分割協議書を作成します。1度決着した遺産分割協議は原則として、やり直しが出来ませんので納得するまで良く話し合うことが大事です。
-
遺産分割協議書は相続人の数だけ作成し、全員の署名・実印を押印し、印鑑証明書も付けて各自一通ずつ保管。
後日の証拠として、また法務局での不動産の所有権移転登記や銀行の名義変更、最終的に相続税の申告書類として必要になりますので、必ず実印を使用。
- 話し合いがつかない場合は家庭裁判所に調停・審判を申し立てることになります。
円満解決のコツ
- 協議の進め方を事前に決めておくこと
- 財産は全てオープンにすること。他の相続人は全て疑心暗鬼、隠匿が1つでもバレれば信頼はなくなります。
- 財産は裏付けのある客観的評価をしておくこと。路線価格、固定資産税評価証明、不動産会社の見積書等が参考になります。
- 後日遺産(借金も)が発見された場合の分配法を決めておくこと。
- 協議書の部数は金融機関と法務局の分も忘れずに。
遺留分について
- 「遺留分」とは被相続人が各相続人に残さなければならない最低の遺産分です。これは、残された家族の生活保障的な意味合いと、財産分配上の公平さを補うために設けられた制度で、非常に強い権利です。遺留分を請求できるのは被相続人の配偶者、子、親です。兄弟姉妹はできません。
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各相続人の遺留分の割合
配偶者または子が相続人になる場合 → 2分の1
父母(直系尊属)のみが相続人になる場合 → 3分の1
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遺言の内容が相続人の遺留分を侵害している場合、その相続人は遺留分減殺請求をし、侵害された分を取戻すことができます。
遺留分の対象となる財産
=死亡時の相続財産+相続開始前1年内の贈与-(寄与分+債務)
この遺留分減殺請求権には「相続開始より、または遺留分が侵害されていることを知った時から1年間」と言う厳しい時効があります。「減殺請求」は遺産分割協議中でもできますが、請求日が特定できる、内容証明郵便(配達証明書付)の方が確実です。
特別受益について
- 特別受益制度とは、生前に高額の贈与とか遺言で多額の遺産を受けていた相続人がいる場合、他の相続人との不公平感を是正するため、その分を相続分の前渡しとして差し引く制度です。
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特別受益となる贈与
- 婚姻・養子縁組の為の贈与: ex持参金、新居、道具類、額によっては結納金、新婚旅行費も入ります。ただし、挙式費用は含みません。
- 生計の資本としての贈与: 大学の学費等
- 被相続人からの遺贈: 遺言による贈与は全て特別受益に該当します。
以上特別受益に該当するものは何年前の古いものでも有効です。
寄与分について
- 寄与分とは被相続人の生前にその財産の維持、又は増加に通常の範囲を超えた特別な貢献をした相続人に与えられるものです。
-
寄与分と認められるものは
- 事業に関する労務の提供
- 事業に関する財産上の給付
- 病気の被相続人の看護
- その他
- 寄与分は相続人だけが認められます。従って、例えば長男の嫁は、どんなに介護に尽くしても寄与分は認められません。
- 寄与分をどの程度認めるかは相続人達の話し合いによります。
- 協議が調わないときは家庭裁判所に「寄与分を定める審判」を求める申立てをし、裁判で決めるようになります。
- 寄与分は財産の維持増加がテーマですので、それを証明する請求書、領収書、記録メモ、写真等証拠を出来るだけ集めておきましょう。
- 寄与分の裁判になっても、実際得られる額は全遺産の10~20%程度になることが多いです。お世話になった人には生前に贈与するか、遺言書に明記しておくことです。